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泪 その二

立ち飲み屋で、氷無しの水割りウィスキー。
その2杯目が既に残り少ない。
最初に頼んだ天婦羅串揚げの五種盛りは二串ばかり残している。
3杯目を頼むついでに厚揚げ焼きを頼んだ。
三角形の厚揚げが2つ。思った以上に食べ出がある。
4杯目を頼まずに済むように食べることにした。
食べながら、厚揚げ焼きに纏わる義理の母のエピソードを思い出した。
義理の父は、55歳を過ぎてから系列の子会社へ出向を命じられた。退職まで親会社で_という強い願いはあったのだが、会社に言われるがまま、潔く、職場を移ることに同意した。見習工から40年近く。謂わば退職記念の日の夕食として、義父は炉端焼きの店へ義母を誘った。炉端焼きの店と言っても、それなりに格式があり、安い店ではない。
その店で、義父は、何でも好きなものを頼めばよいと義母に言ったのだそうだ。
しかし、そんな場所に慣れていない義母は、何を注文すればよいのか分からないまま、まごつく内に、厚揚げ焼きが目の前に差し出された。
無論、義父が注文した品だが、退職記念の日に、厚揚げをただ焼いただけのものを食べる、それが何とも悲しく、泪が溢れて仕方なかったのだそうだ。
後日、その話を聞いた妻は、
本当に、お父さんもお父さんだし、お母さんもお母さんだ。と呆れ、憤慨し、泪を零した。

30〜40年、昔の話だ。