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泪 その一

勤めがあった頃、帰りの電車の中で、泣いている女性を何度か見かけた。
然して遅い時間帯ではない。
西の空に未だ光が残る頃。
或いは、漸く7時を過ぎたあたり。
声は無いが、大粒の泪を頻りに流し、拭っている。
何か声をかけるべきではないのか。そう思いながら、何も言えず、目を逸らし、また視線を戻す。
帰宅して、それを妻に話すと、泣いている人をじろじろ見るものではない。と窘められた。声を掛けたりするのは下心のある男。もっての他だ。と。

泣いている女性を見かけるとき、私は、いつでも自分自身が泣きたくて堪らないときだった。
仕事の行き詰まり、やり切れなさ。何もかも捨て去って、どこかへ行ってしまいたい。そう思いながら、コップ酒を1・2杯。漸く、気持ちを立て直して、帰りの電車に乗る。前にいるのは泣いている若い人。
下心があると言われると、そうなのかもしれないが、私も電車の中で、同じように泪を流したかった。