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雨天延期

仕事の都合上、現地で雨天延期と判断されることが多々あった。4月の終わりから5月上旬にかけての休日出勤は、そんなふうにして流れ、代替保証も手当も支給されなかった。諦めてはいたが、退職の年齢が近づく頃には、なんとも遣る瀬無く、雨天延期が決まると、朝からどこかで飲まずにはいられなかった。しかし、朝の9時前では、行きつけにしていた飲み屋は、どこも開いていなかった。雨の中、カップ酒を持って公園のベンチに座ることもできない。
ふと、舟券場近くなら開いている店がある気がして足を向けた。
思ったとおり開いていて、もう既に何人かが飲んでいた。舟券場が開くのを待っているようだ。
コップ酒を頼み、おでんの竹輪と大根を出してもらう。昔、西宮球場近くの店先で見たような、真っ黒に出汁が染み込んだ竹輪だった。見かけほど醤油辛くはない。皿の端に擦り付けられた暗黄色の辛子を薬味にして、ゆっくりと飲んだ。
飲んでいると何でもそれなりに美味いし、周りの世界も、さっきまでとは別の彩に染まる。
店は、昨日のレース・ハイライトを延々流していた。誰も見ていない。私以外の客は予想紙を広げて見入っていたから、今日のレースのことを考えているようだった。どのレースも、さっきとどこが違うのか分からないくらい似たような展開だった。一番内側を回ってくるボートが、いつでも勝っているように思えた。
コップ一杯が無くなるころには、雨で冷え切った身体も気分も、凝り固まっていたものが溶けて流れて、軽くなっていた。
散髪屋が開く時間になったから、この日は散髪してから帰ろうと考えた。