kanashiikimochide

sakeganomitaitoki

赤蒟蒻

唐辛子入りの板蒟蒻が好きだ。
然したる辛味があるわけではないのだが、自分で買ってくるなら、それを選んでしまう。普段、妻が買わないということも関係しているかもしれない。

職場の数人で時々飲みに行くという時期があった。阪神淡路の震災前、もう30年近く前だと気づく。美味しいものを食べに行くのが主眼で、仕事の話はできるだけしないというのが不文律となっていた。それは多分、一番の年長の私に合わせてくれたからなのだろう。一緒に飲んでいた仲間は皆、その後、遥かに偉くなった。
男ばかりの飲み仲間に、年度変わりの人事異動から、結婚間近の若い女性が一人加わった。幹事を引き受けると、男ばかりで行っていたときには、考えもしないような店に連れていってくれた。

今日は、おでんを食べに行きましょう。
そう言われて入った店は、間接照明の、落ち着いた雰囲気のところだった。
周りを見ると、二人連ればかり。私たちのような、女性一人に男が三人というグループは、いささか場違いな感じがした。
メニューに並ぶ品目は、確かに、おでんの具ばかりだったが、大根にしろ厚揚げにしろ皆、一品ずつ小皿に入れて出される。蒟蒻は、赤蒟蒻だった。
こんなんは、おでんとちゃうやろ!メンバーの一人が言った。
美味しくないですか?
美味しいけど、おでんではない!蒟蒻は何で赤いんや!意味ないやろ!
大きな声、出さないでください。ハズカシイです。
わたしは、やりとりを黙って聞いていた。
赤蒟蒻を食べたのは、その時が初めて。唐辛子入りの板蒟蒻よりも辛いのでは_と期待したが、味は普通の蒟蒻と変わらない。多少、上品な食感だと思ったのは、店の雰囲気に誤魔化されたか。

確かに、普段一人で飲んでいる時のおでんとは異なるものだが、後日、妻と二人で再訪した。何を食べても美味しく、
若い女性がメンバーに入ると、やっぱり違うでしょと言われた。

店は、その後、暫くして、なくなってしまったのだが。