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夏を想う

角打ちの店や立ち飲み酒房のメニューには、夏前ぐらい前から、心太が現れる。
冷奴や枝豆と同じような扱いか。
しかし、肴になるとは、思ってもみなかった。
酢醤油と練り辛子に合わせるから、食べてみたら、日本酒に合う。それを知ったのは、20代の終わり頃。妻に話すと、なるほどね。と頷いて、時々、家でも食べるようになった。
それが出なくなったのは、娘が家を出て、妻と私の二人だけの食卓になったからか。納豆や豆腐に比べると、おかずの品目とするには、確かに、もの足りない。好きな肴なら、外で一人で飲む時に注文する_とでも思ったのだろうか。
私が、心太を注文していた飲み屋は、ここ3年ばかりの間に全て閉業してしまった。生き残った串カツやおでんの店では見たことがない。


心太のことを考えていたら、黒蜜のかかった葛切りを思い出した。
格天井のある店の様子まで思い出すのだが、それがどこなのか分からない。だいたい子供のころから心太でも酢醤油で食べていた。黒蜜の葛切りを私一人で食べたりはしない。職場の旅行で京都や奈良、和歌山辺りに出かけた際にでも食べたのだろうか。口の中に広がる味の記憶はあるのに、いつのことなのか、どこで食べたのか全く思い出せない。
夢の中や物語の記憶のようにも思えてくる。
いずれにせよ、この先も、私一人で食べることはないだろう。