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うまいか

その立ち飲み酒房には、カウンターに並ぶ琺瑯バットの一つに「うまいか」が盛られていた。
しかし、最初の注文にそれを頼むと、怖いオヤジさんの不興を買うことになる。
これは、おやつ。
先ずはおかずを。というのが、オヤジさんの思いだった。
店の一番の売りは、鮪の剝き身。
最初の頃は、誰もが剝き身と呼んでいたのに、いつの間にか、ぶつ切りと名称が変わった。古くからの常連客は、剝き身と言い続けていたし、それで何の問題もなく注文は通っていたが。
店一番の売りでも、売れ残ることがあるのだろう。鮪の煮つけと称するものが、メニューに表示される日があった。煮つけも美味く、あれば頼むことも多かったのだが、オヤジさんは面白くないようだった。
最初から、おやつのうまいかを頼むのは、知っている客なら遠慮するしかなかった。

それでも、その店のうまいかは格別にうまかった。店がなくなり、あちらこちらの食品スーパーで探して、似たものを買ってきても、何か違う。袋からバットへ盛る際に、袋の表示を盗み見しておけば良かったと後悔する。
しかし、二品ほど食べて飲んだ最後に食べる味と、袋から開けていきなり摘まむ味は、一緒ではないのかもしれない。オヤジさんが言っていたとおり、子供のお菓子を摘まんで飲んでいるという気分は残った。