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sakeganomitaitoki

味噌田楽

その飲み屋には、おでんはなく、代わりに味噌田楽があった。
上司2人と同僚1人、部署は違うが皆がお世話になっている技術畑の高齢の人、全部で5人の私的な飲み会が催された。繫忙期になる前に、私を元気づけるという意味があったのではないか。あとになって、思い当たる節が幾つか。が、その時は、同じローカル鉄道の利用者で集まろうという呼びかけだった。皆、穏やかな飲み方の出来る人たちだったし、一番口煩い同僚も、その時は仕事の話をしなかった。
1階は雑然としたカウンター席。5人連れだということで、2階の座敷に上がることになった。誰かの家に上がり込んで飲んでいるような、そんな空間だった。
早速、味噌田楽の盛り合わせを頼んだ。大皿に、茹であがった大根、蒟蒻、小芋、豆腐、竹輪が盛られ、銘々皿には合わせ味噌が添えられていた。好きに取って、味噌を擦り付けて食べる。味噌はそれほど甘くなく、常温の酒とよく合った。
昔からある店。何度か前を通っていたのに、入ったのは初めてだった。
メニューは、どれもボリュームがあり、品数を増やすと食べきれない。しかし、皆、美味かった。
○○電鉄友の会として、度々、集まろうという提案があった。
鉄っちゃん」という言葉が未だ一般的ではない頃だったから、誰も異議なしだったが、私は心密かに、鉄道趣味の人の集まりみたいだと思った。

楽しい飲み会は、その一回で終わった。年度末の異動で、上司の一人が転勤。その年度の1月には震災に見舞われた。
幸い、店は潰れず、私は何度か家族と利用した。
近年の駅前の再開発で取り壊されたが、新しい場所へ移転できたようだ。そこへは未だ行けていない。