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土曜日の下校時間

給食のない土曜日の下校時間。小学校の正門のところに、時々、妙な物売りが来た。
自分でも作れそうな輪ゴムの鉄砲やスギノミ、ジャノヒゲの種子を飛ばす篠竹鉄砲、夜光塗料が塗られた髑髏の玩具など……。
担任の先生からは、買わないようにという指示は出ていたが、集まって見る分は構わない。いつでも大勢の人だかりができていた。中でも珍しかったのが、串に刺した短冊状の蒟蒻を売る人。紙芝居の自転車のように荷台には大きな箱。その蓋を開けると湯気が立ち昇る。お湯が入っていたのか、それとも箱の中に湯を沸かす仕掛けがあったのか。
10円か20円払うと、手製のコリントゲームのようなものをさせてくれる。弾いたビー玉が、どこの穴へ入ったか。その違いで賞品の蒟蒻の大きさが決まる。外れなら小さくて薄い蒟蒻だった。
以下は、蒟蒻を食べている誰かに教えてもらったこと。小父さんが、蒟蒻の串を湯の中から引き上げ手渡す前に、箱の中の壺に串を浸けるのだそうだ。味は味噌味。辛子味噌なのか酢味噌なのかは不明。色は明るい褐色だった。
今なら、日本酒に合いそうだと考える。しかし、他所で似たような蒟蒻売りを見た覚えがない。祭り屋台の一つにあっても不思議ではないのだが。蒟蒻売りの小父さんは、考えて見れば、今の私よりも、ずっと若い男だった気がする。
何故一度くらい食べてみようとしなかったのか。
家に帰ってから10円玉を握りしめ、もう一度学校へ戻るのがイヤ。それに、母に話しても、許してくれるとは思えなかった。昼ご飯を食べて、テレビの「マンスターズ」を見たら、蒟蒻を食べに行きたいとは、もう思わなかった。