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フォー

職場に2年ほどベトナムの女性がいた。
母国語の他に英語、フランス語が堪能。日本語も会話が普通に出来る上に、ある程度は読むことが出来た。書くことも、全て平仮名でなら、不自由はなかった。
ずっと日本で暮らすつもりですか?日本語読み書きのテキストを携えていたので、尋ねてみた。顎を小さく左右に振って、微笑みが返ってきた。いずれ、アメリカかフランスへ移るつもり。日本にいる間に、漢字平仮名混じり文が、読み書きできるところまで、勉強したいとのことだった。別の言語を学ぶのは、面白いのだそうだ。時々、空いた時間に、今いいですか?chat しましょう_と真向いの席から話しかけられた。
そんな時に、私はフォーが好きだと話した。彼女は、びっくりして、どこで食べましたか?と身を乗り出してきた。相撲の大阪場所を見るついでに、何回か行った店を教える。しかし、彼女の表情が曇った。フォーは、屋台で食べるもの。レストランで食べるものではない。
朝からフォーが食べられる屋台が日本にもあるのかと期待しました。
彼女が、遠くを見つめるような表情をしたのを思い出す。
多分、いろんなことがあったのだろう。……
朝靄に煙る水辺。木製の長椅子に座ってフォーを食べている彼女を想像してみた。
白いアオザイ姿。
残念ながら、その景色の何処にも、私を置いてみることは出来なかった。