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チョコレート・セット

いつものように古い歌を聞きながら夕暮れの道を歩いていた。
辿るコースは限られている。越してきた時にはあった本屋もCDショップも飲み屋も、今はないからだ。
僅かに眺望が開け、山と山の狭間に海が見える場所がある。足が停まるのは、眼下に中学校と、亡くなる二日前まで母が暮らしていた老人マンションが見えるからだ。
散歩コースには、病院から葬儀社へ向かう寝台車で上った ramp もある。

昔、娘からプレゼントされたチョコレート・セットを思い出した。
Bob Dylan の歌を聞いていたからだ。
もう何年も前。調べたら2010年。来日公演に合わせたチロルチョコとのコラボレーション。ジャパン・ツアー会場での限定販売(予定)とあったが、娘は、どこで手に入れたのだろうか。
プレゼントを受け取った私は、小さなレコードジャケットが、びっしり並ぶ美しさ・可愛らしさに感嘆した。しかし、食べることができず、そのまま冷蔵庫の中へ。

どれぐらいの期間、冷蔵庫で眠っていたのか。
なんで食べないの。せっかくのプレゼントなのに。カワイソウやんか。
妻は、そう思いながら、捨てた_と云う。娘にも私にも、捨てるとの声掛けはなかった_と思う。
食べなかったのではない。
食べることができなかった。
綺麗なもの、可愛いものに手が出せない。誰かが食べかけたものなら、私も一つ_と包みを開けることができたかもしれない。私へのプレゼントだったから、妻も食べてみることが出来なかったのだろう。

調べている内に、そのセットがネットオークションにあるのを見つけた。もう食べられません_という注意書き付きで。
プレゼントされた記憶を追いかけている内に、もう食べられないというものを今更買ってみたくなっている。……
Oh, what’ll you do now, my darling young one?
ではなく
ugly old man?
と罵るしかない。