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一人焼肉

何も食べる気がしない。
盆過ぎに見た老婦人を思い出す。
半日の出張は思ったとおりの内容。
そこから職場へは戻る気持ちになれなかった。
少し遅くなったが、昼食として韓国冷麺の店へ入った。
震災前とは別の場所に移転。店の内部は以前よりは狭いが、見違えるように明るい。
一人客の私は、カウンター席へ。
2時近くだったが、客の入りは多い。見回すと、4~5人掛けのテーブル席に小さな老婦人が一人。小瓶のビールを飲みながら、新聞を広げ、時折、音の消されたテレビの高校野球を眺めていた。
他のテーブルは埋まっていたのに、その席にいるのは老婆だけ。不思議に思っていると、テーブルのロースターに火が点けられた。さすがに焼肉客と冷麺だけの客は相席にはしづらいのだろう。
しかし、暑い日の昼日中、一人で一皿の肉を食べるのかと感嘆した。見事な原色のサマードレス。しかし、下品な感じはしない。店のオーナーなのかと考えたが、従業員の様子からは、特に何も感じられなかった。一皿に並べられた肉の数は少なく、厚みも薄い。それを少しずつ焼いて食べ、小さな茶碗に軽く盛られた飯とキムチ、スープ…。
小さな老婆だったが、顔の色艶は良く、冷麺の小を啜っている私などより、遥かに生き生きとしていた。高齢になっても、一人であっても、外で肉を焼いて食べる。
あやかりたいものだと思ったくせに、未だに肉を一人で食べに行ったことがない。
今日のように、何も食べる気がしない時、ふと、赤やオレンジのサマードレスを着こなした老婦人を思い浮かべている。