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納豆

納豆を肴にしてコップ酒を飲んでいた。
カウンターの前には私と後から来た客の二人だけ。
怖い大将は昼寝中。綺麗だが頗る不愛想な娘さんが、店番をしていた。

もう一人の客も、納豆を注文した。
発泡スチロールの容器から出して小鉢へ。
ネギも辛子も要らないから、代わりにワサビで_というその客人の我儘を店番のnaokoさんは黙って頷いた。
店の中は心地良い静けさに包まれていた。
娘さんが、珍しく、こんなことを言った。
ウチのお客さんで、納豆を注文する人の半分は、混ぜたりせんと箸で一粒ずつ食べるねんけど。
時々、○○回搔き混ぜな美味しないて言う人がおんねん。人の好き好きやん。
そんなイランこと言うんは、大体ええ歳したオッサンやねん。知り合いでも友達でもない人に、そんなこと言われても。

naoちゃんは、どないしてるん?と尋ねたのは、言うまでもなく私ではない。
納豆食べるんは御飯に掛けてのときだけ。お酒と一緒に食べたりしない_とニベもない。

○○回搔き混ぜな美味しない_と言うてるおっちゃんの根拠はなんや。どうせ誰かの受け売りやろ。知ったような顔して、見ず知らん人に説教して何がおもろいんやろ。自分の金で好きに飲んでるときに余計なこと言わんといて_いっつも思とうねん。と初めて笑顔を見せた。

私も、もう一人の客も、搔き混ぜていない納豆を一粒一粒割り箸で摘まんでいた。
醬油ではなく、塩掛けて食べてるのは、お客さんだけやけど。
こっちを見ている彼女の笑顔が眩しかった。