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ボンレスハム

年始に行く伯母の家の重箱にはハムが入っていた。
初めて口にした時は、それがハムだとは分からなかった。
分厚く切られた塩味の肉。
これは何?と訊いた。
ハムだけど、嫌い?と伯母は言った。
これがハム?今まで食べていたものは何だったのか。
小学校の低学年のくせに、そんなことを思ったのを覚えている。
好きだったら、もっと食べよ。マヨネーズがいる?
父の顔によく似た伯母は優しかった。居間では、伯母の三人の弟たちが、いつものように言い争い、大声で喚いている。温厚な伯父、叔母二人、それに母。正月から飲んで言い争う酔っぱらいたちを止めようとはしなかったし、誰も止めることは出来なかった。
私は、台所に逃げていた。伯母は時々、私の傍へ来て、あれを食べみる?これはどう?と言った。その都度、勧められるものは、どれも美味しかったが、一人で居たかった。取り皿のハムを時々食べて、こんなに美味しいものがあるのに、何を喧嘩しているのかと思った。
中学校へ上がってからは、親族の集まる年始の会を全て拒否して、家で一人で過ごした。
伯母は早くに亡くなった。それがいつだったか、思い出せない。
これがハムかと思ったものは贈答用の品。
私は、そんなものを贈ってもらう人物にはなれなかった。自分で買って食べる気もしなかった。