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sakeganomitaitoki

好きなもの

一人で飲んでいると、手持ち無沙汰なのか、話しかけてくる女将さんがいた。
何が一番好きですか?これさえあれば、ご機嫌だというような。
むろん、酒の肴の中で…という文脈だが。
実は、これが一番というものがない。
食べられないと思うものは少ないです。と応えることにしているが、それで納得してもらえない場合、昔話をする。(心の中で)

小学校の給食で出されるコンビーフに目が無かった。ところがクラスの大多数は、それが苦手。女子の殆どは、白い脂肪分を気味悪がって、器に少量しか取らなかった。したがって、沢山の余りができる。私は、副食用の皿に大盛りにした上、コッペパンの中にも詰め込んで食べていた。給食の献立表が配られるとコンビーフの日を探すのが楽しみだった。
しかし、ある時を境に、食べられなくなった。見ただけで、胸が悪くなった。それを母に言うと、同じものを食べ過ぎたから。あんたがイヤシンボ過ぎるから。と笑われた。
コンビーフがまた食べられるようになったのは、ウィスキーを飲むようになってから。10年近くの時間が必要だった。
これだけなら、小学生の失敗に過ぎないのだが、同じようなことを就職してからもやっている。
職場の歓送迎会で初めて口にしたピータン。日本酒でも紹興酒でも、絶妙な美味しさだった。これも嫌いな人が多く、前菜の皿に残ったまま下げられそうになるのを、全て貰っていた。しかし、2~3年で食べられなくなった。コンビーフを食べ過ぎて胸が悪くなった感覚を思い出した。
今また、20年近くの時間が過ぎて、ピータンの一切れを美味しく食べている。が、これさえあれば_と思うのは、私にはどうも良くない。いつか鬼門じみてくる。あれもこれも、少しずつ食べてこそ、美味しいのだと分かった。

ここまで話すと納得してもらえるはずだが。
こんな長話を聞いてくれる人は、まあいない。カウンターに座る客は、何時までも私一人というわけではないし、店も暇ではなかった。