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紙パックのワイン

角打ちの出来る酒店で、急にワインを飲みたくなるときがある。
日本酒や焼酎と同じか、もう少し大きな紙パック入り。
いろんなものが入っている冷蔵庫の下段にあるのを知っていた。
味の違いなど分からない。飲みたいと思う時に飲めば紙パック入りの白も赤も、とにかく美味い。

それまで日本酒を一、二杯飲んでいた客人が、次はワインにするか_と注文を言った。
どっちですか?という問いに、尾頭付きがあるから白で。との返事。
少し離れたところから尾頭付きて何やねん。と声が掛かった。
これやと言って摘まみ上げたのは、お好みアラレの中の小さな煮干しだった。
ケっという笑い声。しかしイヤな感じではない。
得意満面の男は、飲み干したコップをお姉さんに渡した。
コップは、それでええで。同じ色の飲み物やから。
それに対しても、離れたところから声が掛かる。
赤やったら換えるんか?
赤でもビールでも換えへんな。飲んだら一緒。コップだけ換えても意味ないな。換えるんやったら口も舌も皆、取り換えんとな。
そうや。要らんことばっかり言うてる口は真っ先に換えてもらえ。
あっちこっちから声が飛び交う中、皿やコップを洗いながら、お姉さんが
ありがとね_と小声で言った。
言われた客人の片方の口角が上がったのは、ひょっとするとウィンクだったのか。
いずれにせよ、一連の受け答えは、一人黙って飲んでいる私には、到底真似できない芸当だった。