大した視覚記憶の持ち主ではないのだが。頭から離れない画像が幾つか。
ナショナルキッドのシャープペンシル。
漫画雑誌で見たスーパージェッターの或る場面。
そんな古い画像の記憶は、もうどうにもならない。困るのは、探せば見つかるのではないかという代物。
J.G.Ballardのペーパーバック・・・これはどこかにある。捨ててはいない。
大学から返された製本済みの卒業論文・・・いくら探しても見つからない。昨年末に一括りした資源回収ゴミに紛れ込んだ可能性が大。
小学校５年か６年のときの娘のスナップ写真・・・これはあるはずだが、見つけてどうなるというものでもない。
娘のスナップで特に覚えているものが二つ。一つは２・３歳の頃。メリケンパークに遊びに行ったときに妻が写した。
珍しく二つ括りの髪型で、私の指を握りしめて笑顔で立っている。
思い出しただけでも涙が溢れるため、引き出しにしまっていて、在り処は知っているという形にしている。
もう一つは、小学校高学年、夕方、近所へ散歩したときに私が写した。
娘は、中学校に上がってから、笑顔を見せなくなった。
子供時代最後の笑顔が、そのときのスナップだった気がしている。
中学以降、大人になって独りで住むようになるまで、カメラを向けられるのも嫌だったのではないかな。
成人の日の式典には、妻の振り袖を着て行った。随分、辛い記憶になったみたいだ。
嫌がる娘にカメラを向ける気持ちにはなれず、フィルムカメラのシャッターが下りなくなったのを潮に、私は写真を撮らなくなった。
娘の子供時代最後の笑顔。向かって右から西日を受けていた。撮影した場所も覚えている。
あの笑顔をもう一度見たいと思うのだが、スナップを探してみる気持ちにはなれない。
