kanashiikimochide

sakeganomitaitoki

二階にいる私

私の退職後、妻が飼うことにした猫は、耳の折れていないスコティッシュフォールド
証明書付きだ。
大人しくて抱っこされるのが好きだと聞かされたが、家へ連れて帰ると、本性は違っていた。
まず何よりも、今もって抱っこは許してくれない。寝るのも独りぼっちを好む。
人には甘えたくないのだろう。
二階の薄暗い部屋に籠り、PCモニターの前にいる私は、ヒトではない_ということか。
夏の間は、私のすぐ側にやってきて寝言を言いながら寝ているし、少し寒くなると、膝の上に上ってくる。
妻に、それを言っても信じて貰えないないため、スマートフォンで苦心惨憺証拠写真を撮影した。
膝の上で眠っているときは、普段できないことをやってみる。耳を裏返し、顎の先、肉球の一つ一つまで触り放題だ。
同じことを階下、食卓の椅子、妻の目の前で試みようものなら、爪むき出しの猫パンチを喰らう。そもそも側に寄ることすら叶わない。
さっきまで膝の上にいたのに。
彼女にとって、二階と一階の私は、同じではないらしい。
独りで昼寝をしていて、側に誰もいないと、一頻り呼び立てる。
二階から呼んでやって、自ら上がってきたときは、二階の「私」に出会う。
しかし、呼ばれて私が階下へ降りると、何か違うヤツが来たと考える。
あちらこちらへ逃げて隠れて、こちらを伺っている。
猫は私の食卓椅子を占領して、一日の大半をそこで過ごしている。
私は一体何者なのだろうか。
彼女に訊いてみたくてたまらない。