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sakeganomitaitoki

猫は時々、私には見えない何かに気づいて視線を走らせる。
そして、どこか一点を凝視する。
多分、虫を見つけて追いかけているのだろう。
ムイムイがいたのかな。と声を掛ける。
虫がいたとしても、この猫は見ているだけで、手出しさえしない。それこそ何度も、猫の視線の先を探して、小さな羽虫やカメムシを捕まえてやった。目障りなものを潰せと命じるお姫様の下僕さながらに。
今日も毛繕いの途中で、何かを見つけたように、あらぬ方向を見つめていた。
私も、そちらへ視線を走らせると、黒い小さな虫が飛んでいる。
しかし、そう思って直ぐに、それは私の飛蚊症の症状だと気づいた。
澄んだ綺麗な眼差しをしている猫の硝子体にも、いつか濁りが生じるのだろうかと考えた。
本当に、ムイムイがいたのかな。そう声を掛けたが、無論、猫は返事もしないし、見詰めた視線を私へ向けたりもしない。
何も言わずに何かを見続けている猫が、あまりにも哀しかった。
無性に抱きしめたくなったのだが、猫には、ただ迷惑千万。嫌がるのは分かっている。
私の気まぐれな思いなど、ただ堪える他はないのだ。