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口笛

台風が近づいているのは知っているが。
毎日の夏空。
偏頭痛に悩まされている。
眠っていても、起きて座って、また寝転んでも。
昼前になって、少しばかり歩くことにした。夕方、早朝よりも、人影が絶えた世界。
こんな暑さの中を、散歩するような酔狂は、いない。
歩きながら、いつもの通り、古い歌を聞いていた。
間奏の口笛から、数日前の早朝、庭に水遣りしていた人を思い出した。
白い下着のシャツ姿。ずっと背中をこちらへ向けていたから、顔は分からない。水遣りしながら、何の曲なのか、口笛を吹いていた。
口笛を吹く人は、もう滅多にいないのではないか。少なくとも若い人、若いミュージシャンでは皆無だろう。
間奏で口笛の流れるその曲は、父の好みだった。カレッジフォークが好きだった父は、高く澄んだ女性ヴォーカル一辺倒で、男性ヴォーカルの曲は聞こうともしなかった。それなのに、その曲が、どうもお気に入りだと気づいたのは、口笛の所為だった。その頃の私は、その曲のことを甘っちょろいと考えていて、同じ口笛なら、別のグループの、口笛で始まり ”もう二度と見たくない”で終わる歌が好きだった。
それが今では、どちらの曲も、好きだと思う。
口笛を吹いていた人も、口笛に合わせて歌っていた人も、二つのグループのメンバーの多くは既にこの世の人ではない。
口笛の響きと共に思い出した顔は皆若い頃のままなのだが。