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上昇志向

その若者は、上昇志向の強い人だった。
配属されたところが不満で、学び直しのために大学院へ進みたいと、飲み会の席で語った。
先輩連から総攻撃にあったのは言うまでもない。
今ならパワハラとか何とか言われるのだろうが、今から30年以上前だから、潰すことを目的とした飲み会になった。若者は、それなりに酒が強く、土鍋の蓋で日本酒を飲むことを強要されても、自説を曲げなかった。私から見れば、どっちもどっち、火に油を注ぐような若者の一言も、どうかと思った。
彼が入ってくるまで、大人数でも楽しい飲み会の職場だったため、私もそれなりに参加していた。むろん、隅に座り、手酌で飲むだけの参加だった。
何回か、先輩連の不興を買っても、彼は懲りなかったが、いつの間にか、私の隣で飲むようになった。私が、いつでも黙って飲んでいて、酒を無理強いする人間でないことに気づいたから_のようだった。私を隠れ蓑にして飲んでいると罵られ、その私に助けを求めるような言動もあったが、誰に対しても何かを諭すような気持ちにはなれなかった。彼が言いたいことも分かるし、彼の態度を良しとしない人たちの気持ちもよく分かった。
私はただゆっくりと飲みたかった。その後、私は、大勢の飲み会に参加するのが億劫になり、人と飲むにしても相手を選んだ。それがすぐに、誰も誘わず一人で飲みにいくようになったのだが。
若者を総攻撃していた人達の多くは、その後、偉くなり、若者もまた同じように偉くなった。
私は、何も変わらないまま、一人で酒を飲んで、勤めを終えた。