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生理的な現象

昼前、近所に用があって家を出た。
歩き出してすぐに、右の目の端で糸屑が動いている。眼鏡を外して確かめた。
何もない。
睫毛を触ってみる。それでも糸屑が動いていた。
夏の日差しに久し振りに当たって、立ち眩み、貧血を起こしたのかと考える。しかし、そこから何も変わらない。糸屑のような動きはそのまま。取り敢えず用を済ませた後、駅ビル内の眼科を受診した。
飛蚊症ですね。重篤な疾患の初期症状でないか検査します。今日は運転はされませんね。と確認して、検査のための点眼液を差した。
網膜の撮影の後、硝子体の検査を行った。
影を作っている濁りは確認しました。加齢によるもので、鬱陶しいでしょうが、急に増えたりしなければ問題はありません。そう言って、飛蚊症のパンフレットを差し出した。
髪が白髪になるのと同じようなもの。生理的な現象。との表現が並ぶが、見出しには、はっきりと老化現象だとあった。
誰しも白内障緑内障になると覚悟していたが、飛蚊症も避けられないのか。
慣れるしかない。ということは濁った視界に付き合っていけということ。
視力を失うのではない。それを有り難いこととして受け入れ、死ぬまで生きろということだと納得した。
待合室に並ぶ、私よりも遥かに年上の人たちの、これまで気づかなかった苦衷が身にしみた。