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昆布

缶入り水割りウィスキーの2杯目。それが半分くらいになって袋入りのおやつ昆布を頼んだ。
柔らかい方ですか硬い方ですか。と訊かれて、いつも硬い方を希望した。
柔らかい方が酢昆布だとは思わないが、もしそうならウィスキーには合わない気がする。ウィスキーに昆布という組み合わせも、普通は変なのかもしれない。

母が亡くなる1年前、暮らしていた自立支援型老人マンションに、週に2・3度、顔を見に行った。行くと際限なく愚痴を聞かされた。用意してくれている缶入り水割りウィスキーを飲んで、適当に聞き流してはいたのだが。妻が持たせてくれたちょっとした食べ物や、私が途中で買ったお惣菜の類は、受け取るだけで、一緒に食べようとは言わなかった。水割りウィスキーには、チーズという固定観念があったのだろうか。時折、自分で調理してストックしている茹でた人参を出してくれることもあった。

ウィスキーにおやつ昆布の組み合わせを話すと、父親に似ていると言われた。船乗りだった父は、航海のスケジュールが決まると、長田神社近くの昆布屋へ行って、大量に買い込んでいたそうだ。
私の記憶の中に、そんな父はいない。昆布が好きだったというのも初耳だった。
長田神社近くの昆布屋というのも突然で、母の話に妙なモノが入ってきたように感じた。
若い頃の私なら、父に似ていると言われただけで面白くなかったが、その時はただ不思議な気がしただけだった。

その後、母が亡くなり、暫くして、古い家を取り壊すことになった。何年もほったらかしにしていたのに、今から思えば、残しておけばよかったと思う品が幾つも。古い写真はさすがに捨てることはできなかった。
父と母の結婚式の写真も見つけた。初めて見たものだったが、神前結婚。場所は驚いたことに長田神社だった。

父が買いに行っていたという昆布屋は、もう無いのだろう。

おやつ昆布のある角打ちの酒店も無くなった。知っているものが消えていくのを見るのが老いるということらしい。