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sakeganomitaitoki

頑固

人と交わるのが苦手だ。飲むなら一人で。しかし、頑固そうな職人さんが渋面を作って仕事しているのを眺めるのは好きだ。人とのコミュニケーションが上手く出来なくても、ちゃんと生きていける_そんな気持ちになれる。

その店のカウンターの向こう側_調理スペースには、男が三人。一人は、おでん鍋のところに居て、飲み物の注文も捌く。真ん中は、魚担当。一番奥が、揚げ物と焼き物を担当していた。この揚げ物担当の職人さんは、とにかく怖い人らしい。「ホール」担当のアルバイトのお兄さんやお姉さんたちが、注文を伝える度に、びくびくしている。

その前の揚げ物担当が、どんな人だったか思い出せないくらい強烈な印象を残しているのは、ぶつぶつ独り言を言っているのを耳にしたからだ。
こんなもん誰が食べるんや。
思わず、手元を覗き込んだ。油鍋から小さなイワシの中骨を網ですくい揚げ、油切りの皿に盛り上げていた。一度揚げておいて、注文が通れば揚げ直しする。
イワシの骨せんべい。私も食べたことがある。カリカリで軽く、塩味が効いていて、安くて美味い。
しかし、揚げている職人さんは、人間が食べるもんではないと言わんばかりだった。
短髪の胡麻塩頭。
唇を固く引き結んで、仕事をしていた60過ぎの男。
初めて見た顔だった。

人間が食べるものではないと言わんばかりだったイワシの骨せんべいは、その後、飛ぶように売れて行き、骨の山は小さくなった。職人さんの唇が、へぇ~と音がしそうな形に変わった。

震災で全壊した天麩羅屋のご主人。腕は確かだけれど、ムツカシイ人だ_噂話を肴にして飲んでいた二人組。
別の店の酔客の、与太話を信じるかどうか、だが……。