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気鬱

燃えるゴミの回収は週に2回。独り住まいになってからは、キッチンのゴミ箱には、1回休んでも未だ早いかなという程度しか溜まらない。
数日続いている雨は今日も降っていて、傘を差して行く。おまけに今日はゴミステーションの清掃当番。
私がゴミを出すのは決められた時間どおり5時過ぎ。この辺りに住むのは老人ばかりだが、朝の遅い人が多いらしく、私は、ほとんどいつも、一番乗り。誰にも会いたくないから好都合だ。


ゴミステーションには、よそのゴミ袋は無かったが、片隅にストロングゼロのロング缶が2本あった。
不法投棄である。
瓶缶のゴミステーションはここではなく、少し離れた別の場所。瓶・缶・ペットボトル用のゴミ袋に入れて出さなければならない。
右手に持ったゴミ袋を置き、カラス除けのネットを被せて、家に帰りかけたが、清掃当番だったことを思い出した。残しておいても、ゴミ回収の終わる10時過ぎには、私がそれを片付けなければならない。もう一度戻って、ネットを動かし、ロング缶2本を拾い上げた。カラだと思ったのに、両方とも少し残っている?多分雨水だろうと考えて、中身を側溝に空けて持ち帰った。流しでもう一度濯ぎ、廃品回収用の袋へ。


猫は、妻の死後、何か不安なのか、私に付き纏う。これまでは、朝は誰よりもゆっくり寝ていたのだが、今は私が起きると猫も起きてくる。そして、餌をねだる。今朝は、その上、吐き戻した。ホットカーペットの上で吐こうとしたので、場所を動かしたため、十分な量が吐けなかったようだ。食べたばかりの数粒の餌と胃液。グルーミングしながら咬み千切って飲み込んだはずの毛は見当たらない。多分、また近々吐かないといけないのだろう。

猫と一緒にホットカーペットに横になって、天井を見上げた。
今日は、もう何もしたくない。
雨はいつまで続くのだろう。
そんなことを思いながら、しばらく横になっていた。
それでも、風呂を沸かし、洗濯機を動かし、朝食の用意をした。
ショットグラスに少しだけ赤ワインを入れて、いつも通りの朝食に合わせた。
幾らか心が晴れたかもしれない。
雨は、この後も数日続くようだ。

鏡の向こう

洗面台に据え付けの三面鏡。
鏡の向こうには棚がある。
左右の鏡の裏の棚は入居したときから使っていたのだが、正面の一番大きな鏡の裏にも棚がある。それに気づいたのは、昨年の春頃。入居して7年が過ぎていた。妻に、この後ろに棚があるのを知っていた?と尋ねると、
あら。全然知らなかった。と驚いた。
すぐに化粧水やヘアミストがそこへ収まった。私のものは何もない。
しかし、彼女がその棚を使ったのは僅か数か月。今でも使いさしのボトルが並んでいる。

同じような気づきが妻の死後にあった。
専らアンダーシャツの物干しハンガー。
妻は洗濯物がネックのところから脱落しないように、一つ一つ洗濯ばさみで止めていた。そのやり方を踏襲する形で、私も干していたのだが、左右の腕部分が伸びることに気づいた。一杯に伸ばせば、U字に開いた首周りのアンダーシャツも、風に飛ばされたり、抜け落ちることはない。
その些細な発見を妻に話してみたい。返ってくる言葉は分かっている。
(あら。全然知らなかった。)
それでも、その声が聞きたいし、驚きの表情を見てみたい。

ずっとそばにいた人を亡くすとは、こういうことなんだ。
そう思いながら、上の写真を撮ったとき、
頭の上の、空高くに、月齢まだ僅かの月があるのに気づいた。
月の出は何時頃だったのか。昼の間、空を移動して、夕暮れ、天頂近くに達した。

ずっと空にあっても、誰にも見えないし、それを誰も不思議なこととは思わない。
太陽のある昼間は見えなくて当たり前。

当たり前のことには心は動かない。
そこにあるものには頓着せず、いろんなことを見過ごして、死んでいくのかと思った。