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山葵漬

細長いガラス張りの冷蔵庫に小さな透明カップが並んでいる。
一つは海苔の佃煮。如何にも一匙掬って、そこへ入れたような感じがする。その横のカップの中身は山葵漬?それを確認してから、出してもらった。
殆ど酒粕。どこに山葵の葉や茎があるのか分からない代物だった。しかし、こんなものだろうという予想はついていた。割り箸の先に摘まんだそれを、常温の日本酒と一緒に口に含む。出張先の静岡駅で、新幹線の時間待ちに購入した山葵漬が美味かったのを思い出した。退職した今では、あの改札を通ることはない。
この店で、山葵漬、食べている人を、初めて見たナ。
見知らぬ老人が独り言のように呟いた。
そうですか。と応える他はない。
辛くはないんかナ?とか、東京の人ですか?と言われるのが可笑しい。
ずっと、こっちです。それに、殆ど酒粕だから、奈良漬みたいなもんですと応えた。
どうも、先方は奈良漬も苦手らしい。酒飲みにも色々あるから何とも言えないが、そんな人でも粕汁は好物だったりもする。
ただ、会話はそこまで。
山葵漬は関東の食べ物という発想を暫し追いかけることにした。
関西人は、山葵が苦手なのかもしれない。
静岡や長野土産の山葵漬。
山葵が欠かせない蕎麦も、関東の食文化?。
山葵漬をアテにして飲んでいる私が、東京人だと考える老人の発想は、ある意味、一本の筋が通っていたのかもしれない。
一度も故郷を離れることのできなかった関西人ながら、どこかに所属しているという意識は私にはない。寧ろ地縁を嫌う傾向の方が顕著だ。
酒を口に含みながら詰まらぬことを考えていた。
酒粕ばかりの山葵漬ではなく、シャキシャキした歯ごたえと鼻に抜ける刺激が欲しくなってくる。
これも食意地が張っているということなのだろうか。困ったものだ。