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議論お断わり

娘が生まれた頃、快速の停まる駅からすぐの、10階建て8階に住んでいた。
時々帰りがけに立ち寄って酒を買う店があった。
角打ちで賑わっていたが、大きな道を渡れば我が家、流石に、そこで飲んだりしなかった。
店内に入ってすぐに目に入るのが「議論お断わり」。左右の壁にも、やや小さめながら同じ張り紙があった。
黒々とした墨書。一文字ずつ付された朱墨の三重丸が鮮やかだった。
その頃、職場の人間と飲んでいて、何故か言い争うことが続いた。
飲むなら、一人、黙って…。
そう思うようになっていた。
「議論お断わり」と大書する店主の思いは、いつしか私自身の思いにもなっていた。


退職して1年が来ようとする年の3月、久しぶりに、その辺りへ行く用があった。
「議論お断わり」の店を訪ねたのだが、更地に変わっていた。小さな店舗跡には金網と枯草があるばかり。震災後、ブルーシートと仮設の建物で営業していたのを思い出す。


今朝Googleフォトが、その3月のスナップを上げてきた。この日を覚えていますか?というキャプションと共に。
あの日、曇り空の駅前を何とも言えぬ気持ちで眺めていた。
あと何年生きるか、分からないが、少しでも楽しく_というメールを、駅前のスナップと共に妻へ送っていた。